金属加工の町として知られる新潟県燕市。大小様々な企業が、それぞれの特質を生かした分野で力を発揮し、世界的にも高品質な製品を次々と作り続けている街です。有限会社山儀工業所(以下、山儀工業所)もそんな会社の一つ。プレスや旋盤、研磨を主体に、60年以上もこの町で操業を続けてきました。「燕というのは独特な町で、いろいろな企業が分業制をとっています。どういうことかというと、例えばうちで研磨したものが、いくつかの会社でさまざまな工程を経て返ってくると、問屋さんやユーザーさんに納められる『製品』が出来上がっている」とは3代目社長・樋山昌治さん。メイドイン燕は各工場のスペシャルな技術の集合体。だから燕は世界に誇るブランドになったのでしょう。
山儀工業所の製品は、プロ用厨房器具がメイン。なかでもステンレス製の中華用お玉は、全国シェアの8〜9割を担っているとか。この町では、中小の工場で製品の全国トップシェアを担っていることが多く、驚かされます。
ただ、それゆえに困った問題が進んでいます。高齢化はこの町でも深刻で、事業継承者のいない工場がどんどん増えているのです。燕が誇る磨き職人さんもどんどん減っています。4、50代の仕事ができる「若手」のところにオファーが集中し、需給のバランスで単価が跳ね上がります。実際、山儀工業所の協力工場は5社ほどあるそうですが、そのうち3〜4社は70代、80代になっています。
そこで樋山社長が行き着いたのが、研磨工程の内製化。これまでも一部は自社でやってはいましたが、社内だけでは対応仕切れず、ほとんどを外部に出していたものです。磨き職人の減少を、誰もが扱える自動研磨機の導入で補いたい。そこでかねてからお付き合いのある協栄信用組合に申し出ました。完成品保管用の倉庫も不足していたので、その建設も合わせ数千万円規模の案件になりました。
腹をくくった後継者
幸いなことに、山儀工業所には社長の後を継ぐ人物がすでに控えています。先代社長(現社長の兄)の息子である樋山義和専務。建築設計の仕事に憧れ、一度は家を出ましたが「社長も歳だし、もし万が一のときに自分が何も知らないでは済まされない」と、30歳でこの会社に入り、すでに12年が経っています。
「今回の融資は義和専務の存在なくしては難しかったかもしれません」とは、担当した本店営業部営業課長・川村賢輔さん。「社長が現在67歳。次、どうなるの?と言うのは、どこの企業さんでもついてまわる問題です。けれどこちらは専務が後継者として控えていらっしゃる。数千万円クラスの金額になりますから、お付き合いもそれなりに長期になりますので、そこは確認しておきたい部分でした。もちろん、個人的にも協力したい気持ちは強かったですね。市場の8割から9割を持っている製品を作る企業を、燕から失いたくないですから」(川村課長)。
もう一つ、川村課長が心配していたのは、社内での意思統一がきちんできているか、というところだったと言います。「後継者がいたとしても、社内で意思統一ができているかがとても重要なんです。もし意思統一ができていないようであれば、もう一度相談してもらわないといけなくなります。『あれは先代が勝手にやったこと。俺は知らない』などと言われてしまったら私どもも困るので(笑)。義和さんはそんなことをおっしゃる方ではありませんが、皆さんが意思統一されたのをきちんと受けて、受けた以上は、今度はこちらからも十分にお応えできるよう全力で後押しができます」(川村課長)
さらなる内製化で愛される製品を作り続ける
「社長と自分で、見ている方向が一緒だったのが良かったです。違うものを見ていたら、方針も合わなかったかもしれない。社長の提案に、僕も普通に『そうですね』と言えましたから。」(義和専務)。「『私が借金を作りますが、返すのはあなたですよ、という話だからね(笑)』義和専務に腹をくくってもらわないといけなかった」(昌治社長)。「すでにじわじわ私の方に乗っかりつつあるんですよね。借金の重さが。そして社長が引退すると、これがどかんとのしかかってくる(笑)。頑張らないと」(義和専務)。
念願の自動研磨マシンは、地元・燕のメーカー「株式会社 柴山機械」にカスタムメイドで仕上げてもらいました。ちなみにこちらの会社も大手一流企業からも注文を受けるほどの実力メーカー。本当に燕の町は恐るべしです。
「これで磨きの部分の内製化はほぼ大丈夫。けれどまだいくつもの工程を外部に出している状態は変わりません。そしてどの外注先も、今後が不透明だったりします。ですからもっとさまざまな工程を内製化していきたい。そうすれば副次的な話ですが、製品の移動に伴うキズなども防げ、お客様により良い製品をお届け出来る。コストも抑えられるので経営面でも助かります。燕ブランドの一つとして、いつまでも愛される製品を作り続けたいですね」(義和専務)。
「山儀さんのホームページを見ると、自社のモットーが載っています。要約すると、『関わる人のお役に立ちたい。愛される製品を作りたいという一心でやっています』ということなのですが、今後もそれを愚直に貫いていただきたいな、と思っています。それは私どもの経営理念にも共通するところなので。だから私どももご協力は惜しみません。まっすぐに純粋に、お客様のためになる企業になる。貫いてもらいたいなという気持ちはあります」(川村課長)。