M&Aで地域から後継者を

株式会社阿部製作所・株式会社アベキン
M&Aで地域から後継者を

「M&Aというやり方で、地域の若い経営者に後を譲ることができた。10年間抱え続けた問題が解決した。いまは嬉しい気持ちと、ほっとした気持ちでいっぱいです」。そう語る阿部宏平(こうへい)さんの表情はあくまでも晴れやかです。

宏平氏が社長を務めていた「(有)阿部製作所」は昭和22年の創業。職人の町として知られる燕市で、宏平社長の父親が女性の髪どめや板バネなどの、いわゆる金属プレス加工を手がけたのが始まりです。

「場所もとらないし、運ぶにも運賃がかからない。小さな工場でやるには丁度良い仕事だったんですね。父は毎日油だらけになりながら、夜の10時、11時まで働いていましたよ」(宏平氏)。

宏平氏も高校を卒業すると工場に入りました。昭和30年。日本が高度成長を遂げようとしていた時期です。阿部製作所も金属プレス加工に加え、精密金型なるものを自社で作るようになりました。

「精密金型は取引先の要請で始めて、34、5年やりましたか。取り引き関係が終わっても、その技術は当然社内に残りました」。

精密金型を使った高精度のプレス加工技術。それが阿部製作所の大きな武器になりました。

2017年夏に世界出荷数が累計1億個を超えたカシオ「Gショック」。タフさがウリのこの時計の、裏蓋を作っているのが実は阿部製作所です。

時代の流れで生産の多くが海外に移行されましたが、阿部製作所は国内で唯一、いまでもこの裏蓋を作り続けています。

ほかにも多くのナショナルブランドを高精度プレス加工技術で支え、従業員はわずか20名(平成29年8月)ですが収益体質も確立され、業績は極めて好調です。けれどたった一つだけ、大きな問題がありました。

それが後継者問題です。宏平氏の子どもは全て女性。それぞれが結婚し、幸せな家庭を築いています。嫁ぎ先の旦那さんに無理を言うこともできません。しかし、取引先や社員への責任というものもあります。登山を趣味として体力には自信がある宏平氏でしたが、70歳を過ぎる頃、継いでくれる企業を探し始めました。

ナショナルブランドとの取引がメインの阿部製作所です。発注元の紹介をたどり、全国の企業をあたりました。しかしなかなか話がまとまりません。そして10年が過ぎました。

「この技術は、絶対地元に残したい」

「最初に協栄さんから話を聞いたのは2017年の2月1日。思いも寄らない話に、取り敢えず阿部製作所の財務状況を確認させてもらいました。そうしたらその収益力にビックリ。すごい会社だな、と」。

阿部製作所と同じ昭和22年創業の「(株)アベキン」3代目社長・阿部隆樹さん。8年前に父の跡を継いで代表に就任。当時低迷していた同社を年商10億円規模へ急成長させた手腕が業界でも注目されている44歳の若手社長です。

「当初は正直なところその数字以外に興味はありませんでした。けれど実際に工場へお邪魔して、プレス加工の技術の高さに目を見張りました。プロなら誰もがあの精密さには驚愕するはずです。こんな技術を燕から無くしてはいけない。譲って頂けるものなら、ぜひ自分たちのものにしたい。即座にM&Aの話を進めてもらうよう、協栄さんにお願いしました」。(隆樹社長)

隆樹社長の心に火がつきました。決まった以上は少しでも早く進めたい。阿部製作所、アベキン、協栄信用組合の3者はこの点でも一致していました。2月20日に阿部宏平社長と阿部隆樹社長(同姓ですが縁戚関係ではありません)が初会合。M&Aに関する合意書を交わしたのが4月で、6月には調印を終えるという早業です。(有)阿部製作所は(株)阿部製作所となり、アベキンのグループ会社に収まります。宏平社長は(株)阿部製作所の会長に退き、隆樹社長に後を託しました。

「ツグ・サポ」で地域の活力を維持する

「誰かに継いでもらおうと思ってから10年経ってしまった。けれど協栄さんにお願いしてからは本当に早かった。私の家から後継が出ない以上、地元の若い人に継いでもらえるのが一番」。(宏平会長)

「阿部製作所の培った技術や取引先は、とても魅力があるものです。今後は文字どおり相乗効果で、これまでになかった新しい製品をお届けできると思います。また、企業として安定・継続できるよう、宏平会長と相談しながら人材が集まる会社、育つ会社を心がけ、刷新すべきところはどんどん刷新していきます」(隆樹社長)

今回のM&Aは、平成28年8月に発足した燕三条地区の中小・小規模事業者の事業承継をサポートする「しんくみ事業承継支援協議会(通称:ツグ・サポ)」の第一号案件です。後継者不足はもはや地域社会全体としての大きな問題となっています。雇用や産業、そして活力を維持するためにも、協栄信用組合は今後も事業承継支援に取り組んで参ります。

 株式会社アベキンウェブサイト

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