新潟県田上町。「須田医院」は平成11年にこの町に開業した診療所です。院長の須田剛先生は、脳外科医として14年間各地の病院に勤めて、重症の患者もたくさん診てきました。救えなかった命もあります。命は救えても、障がいが残るケースもありました。困惑する患者や、家族の姿を間近で見てきました。「病気になってから治すのでは遅い」。そんな思いを胸に開業を決意します。田上町は須田先生の故郷。開業前も現在も、診療所は3つ。人口あたりの医療資源は全国平均並みの約36%(※)です。「私は親の跡を継ぐとかではなく、ゼロから開業したので建物や設備、機材もすべて自前で揃えなくてはなりませんでした。協栄さんとのご縁はそのときからですね」。特にこだわったのはMRIの設置でした。「いち開業医が持つのは難しい時代でした。でもこれがあれば、脳の状態がすぐわかる。悪くなる前に患者さんを救える可能性が出てくるんです」。導入には病院本体の建設費とほぼ同等の金額が掛かります。しかもおよそ10年で更新が必要になる代物です。それでも「病気になってから治すのでは遅い」と導入を決意しました。「今年10月には3台目を購入しました。もちろんそれも協栄さんのお世話で(笑)」。
今年着任したばかりの川村賢輔・加茂支店長にとって、これが須田先生との初めての大きな取引きです。「地域医療を守って下さっている須田先生にご協力するのは、私どもの使命だと思っています。先生には地域の皆様により良い医療を提供して頂きたいですね」(川村支店長)。導入された最新のMRIは画像も鮮明。脳の血管もミリ単位で鮮明に見えるといいます。「このMRIを使えば、『隠れ脳梗塞』(無症候性脳梗塞)も見つけることができます。今以上に適切な生活指導ができるようになります」。
※日本医師会 地域医療情報システムの統計から計算(2018年11月現在の地域内医療機関情報の集計値)
人を助けるためにも、自身に「力」を
「生活指導」という言葉が出てきました。実は須田先生が大切にしているのがこの部分。「脳外科をやっていて、必要性を強く感じたのが生活習慣病の予防です。脳の病気の多くは糖尿病や高血圧、高脂血症などが背景にあります。生活習慣を改善できれば、地域全体の健康を高めることができます」。患者に提案するのは適切な食事と運動。須田先生自身、運動が大好きです。野球、柔道、陸上、テニスにラグビー、中学からさまざまなスポーツに取り組んで、60歳になった今でもマスターズ陸上の全国大会に出場し「結構上位に」ランクされるほど。自宅にはトレーニングルームまで作っています。
「健康増進のためならジョギングなどがいいでしょうね。けれど私は例えばここに強盗が来たらそれをやっつけるとか、人を救わなくてはならないときに力を出すとか、いざというときにパワーが出せる体力を維持しておきたいのです」。自分を常に強く保つことで、困っている人を助けたい。心の底から他者に寄り添うメンタリティが須田先生には備わっていると確信しました。
少し話がそれました。それたついでにもう少し。須田医院は水曜午後が休診です。この休診の時間を利用して、須田先生は訪問診療にまわっています。病院まで足を運べなくなった方々を、一軒一軒訪ねるのです。およそ4時間かけて14、5件、1ヵ月で60人を診る計算です。病気にならないための予防はもちろん大切。そのための生活指導でもあります。けれど同時に、なってしまった人たちへのフォローも大切。この地で開業したときからの、須田先生の思いでもあります。顔を見せなくなった患者をわざわざフォローしてまわるお医者さんは、地域医療を支える希望の光です。
SDGs「健康」こそが地域を支える
MRIによる病気の早期発見、治療、生活習慣の改善、訪問診療。地域医療に尽くす須田先生。そんな須田先生がここ数年意識しているのが「SDGs」です。「持続可能な開発目標」の略で、現在、世界各国で盛んに取り組みが行われています。須田先生は、地域医療も広い意味でSDGsに関われるのではないかと考えています。「人々が健康でいるということは、歳をとってからも仕事が続けられるということ。仕事が続けられれば地域経済が持続して、社会保障費の削減にも貢献できます。
日本で昔から食べているような低カロリー、低脂質のものを食べていれば、高血圧、糖尿病、高脂血症はかなり防げます。みんなが食べ過ぎないで、フードロスを無くし、生活習慣病に気を付ける。そうすれば平和で健康な社会、持続可能な世界の実現に寄与できるのではないかと。ともあれ、何事においても自分の健康を最優先に考えることです。自己犠牲の精神で頑張っても、体調を崩してはどうにもなりませんからね。みんなが自分の心と身体を最優先に考えれば、病気を減らすことができると思うんです」。
この話を聞いて、川村支店長が笑顔を見せました。「先生にはいつまでも元気でご活躍していただきたいので、今のお話はすごく心強く感じました。先生のお子様も現在医学部で学んでおられます。先生は当人の意思に任せるとおっしゃっていますが、ぜひ二代目として、この地で先生の思いを繋げていただきたい。私の本音です(笑)」。須田先生も笑って応えます。「息子がダメでも、いずれは孫もできるだろうから、孫が医者になるまで頑張ろうか。それまでは元気でいないと(笑)」。さぁ、まもなく診療が始まる時間です。待合室にはすでに大勢の患者さんが並び、須田先生の診療を心待ちにしています。